「長崎県九十九島でのカンムリウミスズメの繁殖確認」について

最近知ったのだが、長崎県九十九(つくも)島でカンムリウミスズメの「繁殖が確認された」らしい。
http://kyushu.yomiuri.co.jp/nature/animalia/wild/20110121-OYS8T00178.htm

地元ビジターセンターの方が写真をとったらしく紹介記事にも載っているが、この写真と撮影時期から言えることについて簡単に考察したい。

まず、撮影時期は12月であり、カンムリウミスズメの確認されている育雛期である4-6月から半年以上たっており、親鳥に連れられていないことは明らかである。育雛期から秋にかけてその年生まれの鳥はPost-juvenile Moultを終えているはずであり、かりにこの鳥が1年目(1cy)の個体だとしても「幼鳥」という表現はやや不適切である。
非繁殖期の羽衣におけるエイジングはあまり研究されておらず、文献もない。このような状況でなぜこの個体を幼鳥として発表したのかは大きな疑問である。

私はカンムリウミスズメの非繁殖期の羽衣でのエイジングについて研究しているが、この段の考察は研究段階のものであることをご理解いただきたい。
カンムリウミスズメの生殖羽への換羽時期は10~11月ではないかと考えており、撮影時期の12月は成鳥であれは生殖羽の個体が多いはずである。この個体は目先や顔のまわりがまだら状に黒く、冠羽も伸びているため、やや換羽の遅い成鳥=生殖羽への換羽中の個体と考えられる。なお、当歳鳥ではすくなくとも翌年のPost-breeding Moult までほぼ幼鳥と同様の顔の白黒コントラストの強い羽衣(たとえばこれのような)であると考えている。

カンムリウミスズメは巣立ち後に長距離を移動することが知られている(中村豊ほか,2010)。この記事の「長距離を移動しない鳥であるため」という記述は誤りである。最近の知見からは非繁殖期に三陸沖~北海道沖に非繁殖期に分布することが報告されている(Piatt et al, 1994)
ロシアでの繁殖記録も報告されており、この事例でもヒナの発見をもとに近くで繁殖したと考察しているが、既知の繁殖地から遠く離れた北方四島でもヒナが確認されている(このぺージ真ん中ちょい下)こと、ただウミスズメでも同様の生態を持つことを鑑みても、ヒナの確認をもって「近くに繁殖地がある可能性」を議論することはこの鳥の場合慎重になるべきであると思う。

まとめると、この個体は成鳥であると考えられ(少なくとも幼鳥とは識別できない)、近くで繁殖したという解釈はいいすぎであると考える。
もちろん、九十九島付近では繁殖期に目撃されているようなので繁殖の可能性はあると思う。
地道に調査をつづられけてこの地域での保全に有用な情報が得られることを祈っている。

この件を受けて、カンムリウミスズメの非繁殖期のエイジング方法をきちんと確立することの重要性を改めて感じた。近々に情報をまとめようと思う。

文献:

Piatt, J.F & Gould, P.J, 1994, Postbreeding dispersal and drift-net mortality of endangered Japanese murrelet, Auk 111:953-961
中村豊、末吉豊文、福島英樹、2010、カンムリウミスズメの巣立ちその後、宮崎県総合博物館研究紀要、30:1‐9
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by synthliboramphus | 2011-05-11 14:08 | ウミドリ Seabirds